-03-
あの頃見えた光はほかに何もいらないほど眩しくて
温かくて強くて安堵感が溢れてた。
血に染まった過去を戻すことなんか出来ない。
自分の両親がこの世にいないことも
誰かが何処かで悲鳴をあげていることも。
ただ、感情の追いつかない所で見てるしか出来ない。
腐ってしまうより誰かに壊してもらった方が
よっぽどヒーローじみて見えるのだろうか。
奇麗事ばかり並べて格好つけたって結局は何にも自分に落ちてこない。
どうでも良くなってしまいそうだ。
いっその事何もかも、どうでも良く切り捨ててしまえば楽なのに。
「ハリー?!如何したんだ、その手!」
ハリーがシャワーを浴びて出てくると同室のロンが叫んだ。
ハリーは濡れた髪を乾かそうともせず、黒い髪の先からはぽたぽたと水が床に落ち、
染みを作っている。
「どうしたの?」
ロンの声に驚いたネビルが2人の方に眠たそうに
目をこすりながらやってくる。
そして、ハリーの白いシャツから出ている右の手が
異常に紅く腫れているのを見、驚いたようにその手とハリーの顔を交互に見た。
「は・・・ハリー!手が腫れてるよ・・血も出てる・・・!」
ネビルは確かおばあちゃんから送られてきた
『一瞬にして血が止まる!魔法の包帯!』があるはずだ、
と枕もとの鞄に大慌てでつまずきながら走っていった。
「さぁ、ハリー。良く見せて。何が有ったんだよ風呂の中でさ。」
ロンはネビルから包帯を受け取ると
ハリーに右手を出すように目で促す。
ハリーは首を振ると
「何でもない。」そう呟いた。
ロンはそれでも何とか傷口からの出血を止めようと
包帯のカバーを取ってハリーの前に出す。
「いいから、ハリー。傷口から血が出てるんだから。
じゃなきゃマダム・ポンフリーの所へ・・・」
「何でもないって言ってるだろう?!」
ばしっと何かを払う音がしてロンの持っていた包帯は宙を舞って
ふわり、と足元に落ちた。
ハリーがロンの手を払ったのだ。
「大きなお世話だよ!何でもない、僕は何でもないんだから!」
ハリーはぎっとロンを睨む。
驚いて目を見開いていたロンの顔に
少しずつ怒りの色が浮かんできた。
「僕は寝るよ。どいてくれ。」
「何でもない分けないだろ!」
ハリーがロンの横を通ろうとしたときロンは大声を出した。
「どうやったら君がまともに見える!
風呂に入って出てきたら手はボロボロじゃないか!」
ロンはグイッと荒々しくハリーの怪我をしている手を掴んだ。
ハリーの表情が苦痛にゆがむ。
「君は最近可笑しい、いつも何かを探すような目つきをしてるし何時だって上の空だ!」
ハリーは今ではもう俯いていた。
ロンが荒い息でそう怒鳴るのをネビルが横でおろおろしながら見ている。
ロンはハリーが何も言わないのと、
自分の手がハリーの血で染まっていくのとで
徐々に冷静さを戻してきた。
ロンは横にいるネビルを見ると、包帯を取ってくれるように頼んだ。
「・・・・御免、ロン。今は・・・いえない。」
ハリーはロンに包帯を巻いてもらっている最中、
ポツリ、とロンにしか聞こえないくらいの小ささで呟いた。
ロンは聞こえたのか、聞こえないのか解らないが首を立てに振った。
「ハリー、手怪我したのか?」
昨日ロンに怒鳴られて正気に戻ったハリーは
一人反省するべく早朝に談話室へと降りて来ていた。
「・・・うん。ちょっとぶつけちゃって・・・。
タクヤはこんな朝早くにどうしたの?」
ハリーはタクヤに何となく気まずそうに応える。
タクヤはハリーの前のソファに座った。
タクヤは意味ありげに微笑むと
「あぁ、ちょっとな。」
そう応えた。
ハリーは出来るならタクヤから離れて
またベットに戻りたいと一瞬考えた。
「なぁ、ハリー。君は好きな子、いないのか?」
「・・・え?」
ハリーが顔を上げると
タクヤははにかむような、微笑むような微妙な表情をしていた。
“好きな子”
そういわれて思い浮かぶのはただ一人。
。
目の前にいるタクヤの恋人で
自分が右手の怪我を作るまでに心を占める人。
「・・・ううん、いないよ。」
「そうか・・・」
「タクヤは・・・の何処に惹かれたの?」
ハリーが静に首を横に振るとタクヤはソファに深く腰掛けた。
ハリーは無意識のうちに質問していた。
タクヤはその質問に視線を宙に向けるとうーん、と声を出す。
タクヤは正直人気が有った。
髪の毛は黒に近いさらりとしたブラウンで、瞳は柔らかい茶色。
鼻筋がすっと通った中々の容姿。
性格は明るくて誰とでも打ち解けれるし
勉強だってなかなか優秀な成績を収めていた。
まさに文句のつけようの無い少年。
何人もの女生徒が告白したりしたが、
タクヤはずっと一筋だった。
はで人気がある少女だった。
髪の毛はセミロングで柔らかい黒。
瞳はグレーで可愛い、というよりは綺麗と言う方が似合うだろう。
タクヤ同様に鼻筋がすっと通った容姿で
性格は控えめでは有るが明るく、はきはきしている。
成績もそこそこで、タクヤと同じように何人もの生徒に告白されているが
今まで頑として受け付けなかった。
「そうだなぁ・・・。正直言えば、一目ぼれだったんだよ。」
タクヤは恥ずかしそうに頭をぽりぽりと掻き、
目を細めてハリーを見る。
「初めて見た瞬間にさ、僕はこの人が好きだってね。」
「・・・そう・・・なんだ。」
タクヤがそう語ると、ハリーは何だか傷口がじんじんするのを感じた。
ハリーは傷のある右手の上に左手を重ね、タクヤをぼーっとした瞳で映す。
その時、ハリーの目がちゃんとタクヤを映していたなら、
間違っていなかったらタクヤはふと寂しげな表情を浮かべ
そしてタクヤは両手を膝の上で組むと、其処に視線を落とした。
「僕は、僕がずっとの事だけを
見てると・・・思ってたんだけどなぁ・・・。」
「・・・タクヤ?」
ぼそり、とタクヤが寂しげに呟くのをハリーはしっかりと聞き取れなかった。
ハリーは眉根にしわを寄せてタクヤに声を掛ける。
タクヤははっと顔を上げ、何時ものようにハリーに微笑んだ。
「何でもない。」
「・・・・そう・・・」
タクヤはもう一度ハリーに微笑みかけると
「じゃぁ、またね」と席を立ち談話室から出て行く。
タクヤは何でもない、と微笑んでいた。
だけど、ハリーは何かを感じていた。
タクヤは何かを隠してる。
ハリーはタクヤの出て行った後を見つめた。