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初めは何でもない傷だった。
擦り傷でも、浅い切り傷でも。
すぐに治るような、生易しい傷だった。



「・・・・・・・」



視線の先にいるのはずっと想いを寄せる少女。
巨木の下で、楽しそうに話をしている。



彼女の隣にいるのは僕じゃない。
彼女が微笑みかけているのは僕じゃない。
ぎゅっと手を握り締めると
指先から血が引けてゆくのが分かった。
本当に楽しそうに、幸せそうに。


自分が、自分ではないような感覚に囚われて逃げられない。



壊してしまいたい、僕の手で、めちゃくちゃにしてしまいたい。

その場にいられることが出来なくなった自分は、くるりと踵を返して歩き始めた。




顔には何も出さない。苦しくても
どんなに心の奥が憎しみでゆがんでいても。
でなきゃ、自分が酷く惨めに見えて仕方が無い。










「・・・・あの・・・ハリー?」






気まぐれな階段に脚を乗せた時。
鈴のなるような綺麗な声が聞こえた。



「君は・・・」




振り返った先にいたのはずいぶんと小柄な少女。
ネクタイの色からするとハッフルパフ生。


瞳の色や髪の毛の色が
だいぶ前に卒業したチョウ・チャンとかぶる。


「あ、初めまして。ハッフルパフのアンナ。アンナ・クライトです。」


ころころとした感じを与えるこの少女は何処か可愛らしい。
アンナは自己紹介をすると、表情に赤みが差した。


「あの・・それで、アンナ?僕に何か用があるの?」


ハリーはにこり、と愛想の良い笑顔を浮かべてそう問うた。
アンナはかぁっと赤くなり、ハリーを見つめた。

そんな様子に可愛い、という言葉が思い浮かんだ。




「あの・・・貴方は私のこと、知らないと思います。
 でも、私は貴方の事、ずっと見てきました。」


あぁ、これか。
大事な言葉なのに。
何処か人事で流してしまう自分がいた。



「私・・・・ハリーが好き。」




この言葉をくれるのが彼女だったらどんなに嬉しいだろうか。
それでも自分は、彼女を傷つけてしまいそう。
真っ白で、綺麗な彼女をこの手で壊してしまいそう。
今でも自分の心を捕らえて離さない彼女を。
愛し過ぎて何時か壊してしまいそう。


「あの、良かったら・・・付き合って・・」




知らないのに?


僕がずっと一人の事を想っている事や


僕がどんなに醜い生き物なのかも知らないのに?



“彼女”を忘れられるなら。








君が僕の心に居続ける“彼女”を消し去ってくれるなら。







「・・・・僕で・・・よければ。」





アンナと言う少女の嬉しそうな表情に微笑んで
手を差し出した。心の奥で、何かが音を立てて崩れていった。