-12-
授業中、何故か先生の話は頭に入ってこない。
考えるのは、彼女の事だけ。
儚くて、綺麗なあの人。
ずっと、自分の心を捕らえて離さない。
笑うと細められる瞳とか、
風に舞う、綺麗な髪とか、
落ち着く色のある声とか。
全てがとても儚くて、透明な感じのする人。
好きで、好きでしょうがない。
教科書に視線を落とし、授業に集中している振りをしながら
ペンを弄んだ。
本当はちっとも授業なんか集中していないのだけど。
視線を軽く持ち上げて、教室の教卓のすぐ下に向ければ
彼女が居る。
何時もと同じように、隣には彼女の恋人がいて。
毎度の事ながら、キリキリと心が痛む。
それが嫉妬である事は良く分かっていたし
かといって、その姿を見ないわけにもいかなかった。
ずっと押さえ込んでいた気持ちは
何時の間にか容器からこぼれて。
それでも尚、それは止まる事を知らない。
奪ってやりたいと思う。
彼女を独り占めにしたいとも思う。
だけど、彼女の悲しみの表情は見たくない。
自分だけに笑顔を向けて欲しい。
自分のことで、笑顔になって欲しい。
・・・・矛盾だらけな自分が、可笑しかった。
後姿しか見えない彼女を見つめつづけ、
時々見える横顔に心が躍った。
だけど、今日は何か違っている。
見た目ではわからない程度の変化。
きっと、これは自分が彼女を見つめつづけてきたからわかることだ。
雰囲気が、彼女のいつも明るい雰囲気が今日は薄い。
喩えるなら、暗闇で残り少ないロウソクが
ユラユラと揺れている、そんな感じ。
そう、まるでもうすぐ消えてしまいそうな・・・
彼女に、に何かあったのだろうか。
「ハリー?」
授業後、何時ものように談話室に戻ったハリーは
課題を片付けようと机の上に広げたのは良いものの、
ある考えがその行動を邪魔して全く課題が進まなかった。
羽ペンをインクに浸してはまたインク壺にペン先を戻す。その繰り返し。
何回目かのインク壺にペン先を戻した時、声がかかった。
「・・・ロン」
顔を上げると、其処には課題の本を沢山抱えたロンが立っていた。
ロンはハリーとハリーの手付かずの課題を交互に見ると苦笑いを浮べる。
「課題進んでないみたいだね」
「うん・・・まぁね」
全然駄目なんだよ、そうぼやきながら羽ペンを投げ置く。
二行ほどしか進んでいない羊皮紙の上にそれは軽く転がり、カサカサと虚しい音を立てた。
ロンはそれを眼で追う。
「ロンは課題終ったの?」
ハリーはその羽ペンに視線を向けたままロンに声をかけた。
ロンはちょっと苦笑いを含んだ。
「まだ終ってないんだけど・・・ハーマイオニーが少し見てくれてさ」
ハーマイオニーが見てくれて、言葉にはワンクッションあったが
恐らく無理矢理にでもペンを持たされ課題に向わせたのだろう。
ロンがヒーヒーいいながら課題に向かい、その後ろでハーマイオニーが教科書片手に
目を光らせている姿がハリーには易々と想像できた。
ハリーはその姿を想像し、小さく笑って目を閉じた。
「そう言えばさ。ハリー・・・」
「・・・・ん?」
何故か麻痺して上手く働かない頭にロンの声が虚ろに響く。
あぁ、このまま眠ってしまおうか、そんな小さな誘惑が襲った。
「ダンスパーティーの話、聞いた?」
あぁ、今年もそんな時期か。ぼんやりと思う。
ハリーにとって、ダンスパーティーとはその程度のものだった。
過去一度たりとも好きな人と踊っていないのだからそれは何故かどこか遠い国の話で
あるように感じてしまうのだ。
ハリーは返事の換わりに頷いてみせる。ロンが小さく溜息を付くのが聞こえた。
「・・・とタクヤの話は?」
「・・・!」
妙な単語が一気に脳を覚醒する。
目を見開き、勢い良く顔を上げた。ロンが気まずそうな顔で此方を見ている。
何故か妙に心臓が五月蝿く感じる。見開いた目はロンを凝視して。
「な・・・に、その話って・・・」
カラカラな喉からこぼれた言葉は苦しげで驚きを含んでいる。
ロンはばつが悪そうに視線を反らした。
「・・・実は――――・・・」
「・・・・そっか・・・仕方ない、よね?」
どこかでそう呟く声が、聞こえた 気がした。