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小さい頃からどちらか一つだけを選択するという行為は苦手なものだった。
常に身の回りには魅力的で誘惑されるものが沢山あって、その中から一つだけしか
選べないという状況に追い込まれることは無かった。とても恵まれていた。




同時に、それがいけないことだと自覚すること、思うことがなかった。
無邪気な子供と同じで、与えられたものとしてそれが当然だと思っていたし
欲しいものが二つ同時に手に入ればその嬉しさが小さな罪悪感など凌駕してしまう。
そう、只それが自分の中で当たり前だったという話で、決して悪気があった分けではない。
むしろ、悪気なんて、なかったのだ。












「…そっか、仕方ない、ね?」






そう、このときまでは。
少なくとも、心を痛めることなんてなかったのだ。












人に流されない、自分の意思をしっかり持って真直ぐと前を見る彼女に恋をした。
はじめは見た目がただ好きな感じで、授業が重なるごとに気になる人になって
そして内面を知っていった。ただ一筋に通る、好きという感情だけが
世界を明るくした。彼女が恋愛に無関心な分、積極的に動いたし彼女の姿を見つけるだけで
心は空を飛ぶように、まるで飛行中のように気分は高潮した。
本当に、一人の女性を愛するという事は自分を明るく変えた。
彼女は微笑んでくれた。このまま死んでしまっても良いと思えるほど幸せな気持ちだった。
隣に彼女がいる、やわらかくて小さな手を掴めば頬をうっすらと赤くして握り返す。
初めて触れた唇に涙が出そうだった。彼女は僕の全てだった。それは事実。






課題をこなす様に図書室に通うのは日課だった。
一番の日当たりがいい席は僕だけの特等席でいつも本を沢山持ち込んでは
出された課題を片っ端からやっつけて、時には趣味の読書の肥やしになるような本をさがした。
背中に当たる日はとても気持ちが良くてついつい眠くなってしまうこともあった。
そんなある日、僕はハッフルパフの女子生徒に声をかけられた。






最初はたわいのない会話だった。
天気が良いとか、いつも図書室にいるのかとか、そんなことばかり。
彼女は一つ年下だった。アジア系の顔つきには幼さが残り、いつも遠慮がちに躊躇いがちに
一つ一つ言葉を落とした。
なぜだかそれが至極新鮮で、いつの間にか彼女−でいっぱいだった僕の心に
自然に入り込んできた。そして小さな種は徐々に大きくなりある感情が根を下ろしていった。
僕はどちらか一つを選ぶなんてできない男だった。
そして差し出されたもう一つに無意識的に手をのばしてしまった。







咲いた花は枯れず鮮やかなまま。
僕はまだ若かった。いけない事だと知りながらも手に入れた二つの物を手放す気にはなれなかった。
二つとも大切だった。優劣のあるものではなく、ただ感情が両手伸ばし、掴んでいたのだ。




だけど徐々に僕の中で何かが変わっていって。
一方の花しか見ることが出来なくなって来たのだ。美しい花は、静かな花よりも
色とりどりの鮮やかな花にどうしても目が行ってしまう。都合の良い言い訳をすれば
鮮やかな方にしか目を向けなくなったのだ。


そんな僕の変化に、は薄々気付いていたのか分からないが、
彼女は日に日に元気を失っていった。
僕がほれ込んだあの凛とした姿も弱弱しく見えて、それも手伝って僕の視界を狭くして。




静かな花、が傷つく事を知りながらも、僕は、華やかな花、アンナの手をとった。








「…そっか、仕方ない、ね?」



は小さく笑んで、その手を離した。
胸が痛んだ気がしたけど、僕にはそんな資格がないことは分かっていたし
どうしようもできなかったのだ。