寒くて、風が強くて、ついこの前までは青かった葉は 褐色に色づき、バラバラと親である木から離れていく。 寒い、寒いと小声で呟きながらコテージに出ると、 禁じられた森の近くを歩く、二つの影を見つけた。 ――――――――――――ギチギチ。 良く見ればそれは良く見知った二人で。否、良く見なくても分かったんだけど。 静かな雰囲気の中、枯草の舞う茶色い森の端で其処の二人だけ時間の流れが酷く ゆっくりだ。 スローモーションで時間が進んでいるみたいに。だけど木の葉はチラチラと普通 に振ってくるから それは一時の錯覚なのだと、馬鹿な考えが思考を捕らえる。 二人は一番近くで見てきたから。 多分どこかで嫌っていたんだ、ゆっくりとした時間が流れて、吐き気がするような程 幸せな雰囲気創る事を、だ。 散っていく木の葉を、彼等を見つめて気付いた。 あぁ、そうか。もう一年も経つのか。 早い物だ。あっという間だ。 あの日の出来事を何故か急に思い出してしまう。天気の悪い、寒い日だった。 「また告られたんだって?」 「・・・・」 秋になったばっかりだと言うのに 急に冷え込んできた為、寒い廊下を早く抜けて温かな談話室に滑り込んだ。 その先にはやはり何時ものように数人の生徒が思い思いの場所でくつろいでいて、 何時ものように窓際のソファに視線を向けると、やはり何時ものようにアイツが座っていた。 俺はさっき仕入れた情報をアイツにぶつけてやろうと、ニヤリとした笑顔を浮べながら 近づいていく。ソファの背もたれに肘をついたとき、奴は思い切り嫌そうな顔をした。 「聞いたぜ〜相変わらずだな。」 無言で本を捲った奴―は、俺の言葉をシカトする。 何時もの事だ。そっけなくて、無愛想な奴。そして俺の親友。 が告白されるのは珍しい事じゃない。 端整な顔立ちや大人びた立ち居振舞いは女の心を刺激する。 そして奴は、時々笑ったりもするのだ。 ほんの少し、頬を緩める程度だけど。 きっと、それを知っているのは俺だけだ。 もっと笑えば良いのに。 何度も思うけど言葉にしない。もったいない気がする。見せたくない。 「そんな事だけを言いに来たのか、シリウス」 「そんな事って何だよ!俺達親友じゃねぇか。教えてくれたって良いだろ?」 「・・・」 俺はちょっと傷ついた振りをして首垂れての隣に座った。 は横目で其れを見るとどうでも良いように、また本を一ページ捲った。 俺にとってあまりどうでも良い事じゃないんだけど。ちょっと傷ついた。否、本当に。 何時だってそうだった。 に関する、そう言った、告白の情報やなんかは眼鏡のくしゃくしゃの黒髪の アイツから初めて聞く物ばかりだった。がべらべらと喋るなんて、 まして自分についてのそう言う類の物を誰かに話すなんて考えられない。奴の情報源は 多分、奴の彼女あたりか、奴の嗅覚にある筈だ。 だけど、親友であるはずの俺が第三者からそんな話を聞くのは正直寂しい。 信用されてないと言う事なのか、親友だと思ってるのは俺だけなのか。 の笑顔を見る度、そんな感情どこかに吹っ飛んでしまうけど。 の全てを知っていたいと思うのは、この感情は何なのだろう。 「また振ったんだ?」 確信犯だと思いながらもその問いをぶつける自分に自嘲がこぼれる。 足を組んで身体をの方に向けるとまた、嫌そうな顔をされた。 それは俺がこうしての方に身体を向けたことなのか、それとも質問に腹が 立ったのか解らないけど。 ホラ、そうやってすぐ迷惑そうな顔をする。 もう少し、愛想良くしても言いと思うのんだけどな。 そんな事口にしたら、もう口を訊いて貰えないのを知ってるから言わないけど。 「また、なんてつけるな。」 「だって一度も良い返事した事無いだろ?」 「・・・・・」 は呆れたようにまた視線を本へ戻した。つまらない本に。 本当に綺麗な顔をしてる。 ガラス細工みたいな、例えが出来ないような感じの。そんな言葉しか出てこない自慢の頭は今は さっぱり使い物にならない。こんな時こそ活動してくれよ、俺の頭。 ジッと見つめていたら、が横目で俺を見た。 少し長めの髪の毛の向こうから、静かな瞳が俺を見つけた。 何故か、時間が一瞬止まった 「オレはお前みたいに遊びじゃ付き合わないんだよ」 そんな感じがした。 捕らえられてしまったような感覚が、一瞬。静かなあの瞳に。 あぁ、なんだろう、この違和感。胸の所が苦しい。なんだろう。 きっとこの感覚は違和感じゃなくて、もっと別な 。 「・・・酷い事、言うよなお前。」 「本当のことだろ?」 少ししょぼくれた格好をすると、の頬が少し緩んだ。 あぁ、あぁ。 どうしてキミはそう笑うんだろう。どうして、 目を閉じてもその笑顔は消えないんだろう。 あの侭で良い筈だったんだ。 は言った。 あの寒い秋の日の次の日。 付き合うと。あの日話した、あの彼女と。 珍しいな、と思った。続くわけが無いとも思った。(否、願った) だって、アイツは気まぐれな奴だから、きっとすぐあの小さな笑顔を浮べて 「やっぱり、駄目だった」 そう言って、また元に戻ってくる。 そうしてまた、訳の無い淡々とした日々を過ごして、ゆっくりと一緒に。 彼女は俺と同い年だった。とも同い年。 小さくて、何処にでもいるような平凡な奴。すぐに怒るしすぐに笑うしすぐに泣くし。 最初は三人で行動してた。 けど何時の間にか俺だけが置いて行かれていた。 は、俺よりも彼女との時間のほうを長く取りたがった。 早く気付くべきだったんだ。もうあの日々は戻ってこないって事。 俺がに対して抱いていた感情も、全部。 そうすればきっと今、こんな酷い感情に胸を焼かれる事も無かった筈だ。 葉っぱが、褐色の葉っぱが一枚落ちた。 俺もあんな風にそっけなく居なくなる事が出来たらいいのに。 褐色の森の中を静にゆっくりと歩く二人を見て葉っぱが散る。 そう言えば、もう一年経つんだ。早い物だ。あっという間だ。 があの笑顔を彼女だけに向けるようになったのも、俺の傍で時間が止まることがなくなったのも 俺が独りきりになる事も 過ぎ去った一年間の中で本の一瞬の、褐色づいた葉っぱのように散っていった。 呆気ねぇな。 毎日が寒さに向って進んでいくようで、俺の心は変な音を上げる(多分悲鳴だろうけど)。 そう言えば、アイツは今どうしてるだろうかと思ったのは何故だったのだろう。 行き着く先の答は大体決っているのに。それでも不図奴の事を考えてしまう俺は 正直、病的でもあると思う。 あぁ、ホラ。 また だ。 ギ チ ギ チ
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