「知ってる?ハリーとジニーの話」
「ロンは何だか色々思うところがあるみたいだけど」
「わたしはそれでも良かったと思ってる」
片手を挙げて、わたしは真っ白な雲が不自然にすら見えるほど青い空を仰いだ。
片目を閉じた視界の中で、ところどころ突き出した木々がその空をパズルにしているようだった。ああもう、あの白い雲を見続けるにはわたしの目は色素が弱すぎる。目が痛い。
「まだまだ子供だなんて思ってたけど、もう子供じゃないんだよね」
真っ白な目を突き刺す空から視線をずらしてつま先を見た。
空とは正反対な茶褐色の土に汚れた革靴がやや内股気味に寄り添っている。
そういえばこの内股気味な足は良くもつれて転んだ、なんて、懐かしいことを思った。
「わたし、この内股のせいでよく転んでさぁ」
「転ぶと必ずリリーが怒ったんだよね」
小さくクスクスと笑うとさわさわと葉っぱが揺られた。
わたしはその風が気持ちよくて思い切り空気を吸い込んだ。
「ハリーも、いつか家庭を持つんだよね」
「そしたら、もう今以上悲しまなくてすむようになるんだよね」
一生懸命同意を求めるけれど、相変わらず笑顔を浮かべたままで何も答えてくれない。わたしはあーあ、と小さく声を漏らしてもういちど空を見上げた。やっぱり目が痛い。年をとっても相変わらずハンサムなままなのよね、わたしが皮肉たっぷりにつぶやいても相変わらず笑顔を浮かべたままだ。何か言ってよ、わたしがその言葉を口にしたとき、声がかすかに震えていた。それでも、相変わらず笑顔のまま。
「ずるいよ、ホント、いつもあんたって、ずるいよ」
のどが焼けそうだ。目が痛い。鼻の奥がツーンとする。
わたしはにぎりしめていた、もうボロボロな写真をぼんやりと見つめる。相変わらず、本当にハンサムな笑顔がそこに写っていた。ジェームズもリリーも居る。
返事をして欲しいと思うのに、あんたはもう居ないんだ。ハリーが可愛そうだ、一緒に暮らそうと言ったのに、無実が証明される前に死んで。
ああもう何でこんな、いやだもう、ほんとう。
写真の中の笑顔ですら痛い。
シリウスが居なくなったというのに相変わらずわたしは生きている。眠くなるし、おなかもすく。天気は崩れるし、快晴で風も吹く。ハリーが送ってきた手紙はまだある。それを嬉しそうに読んで、子供みたいに目を輝かせて羽ペンを走らせていたあの姿が今でもあるような気がしていつも座っていたあの椅子に無意識に視線を向けてしまって。でももう居ないなんて。つい最近まで一緒に居たのに。
わかっているのに、もう居ないんだって事くらい。
それでも普通に時は流れていくからわたしは本当にやるせない。
最後まで素直になれなかったわたしはもう、泣くことすらできない
|