| ぴちち、と鳥が鳴き始めたとき既にあたしは悟っていて それを知ったときなぜだかあたしは無性に笑いたくなった(狂ってしまったのか)(やっぱりとも思った)否、知らないふりをし続けてきたのだ、無意識的にそれを避けてきていたのだ。自分が傷つくのが嫌で。 そしてやっぱりあたしはどこまでもエゴイズムの強い女だったのだ。 シカマル君が中忍になりたての頃から親しくなった女の人がいるのは知っていた。その人に命を助けられたことも。その女の人はとてもきれいな人で、あたしは遠くからしか見たことが無いけど、目に力のある人で。 何度かその姿を見ているうちに唐突に、何かに気づいてしまった。そしてあたしはそれがシカマル君からも見えること、そして二人の間に見えない何かが芽生えていることを感じてしまった。 あたしはシカマル君がすきだった。そう、過去形の話。幼かったあたしは、ぺったんこの胸の奥についた熱いそれが一体何なのか理解することも無くただこんな日々が続くものだとばかり信じていた。 今思えばあたしがシカマル君に向けていたまなざしは、ヒナタちゃんがナルト君に向けていたのと同じもので憧れと、尊敬と、そしてそれが入り混じったものだったのだけど(あたしは気づかなかったの)。 シカマル君はサスケ君みたいに派手にモテる事はなかったけど、一部の女の子に人気があった。頭が良くて運動も出来て、すごい能力を持っていて。男の子の中でも目立つグループに自然といたというか、グループ自体入っていなかったというか。とりあえずそんな彼はもてていた。 あたしは一度だけ、シカマル君に聞いてみた事があった。下忍になったすぐのこと。初めての任務でたまたま近い場所でたまたま時間が余っていて、流れでなんとなく聞いてみた。我ながらバカな質問だったと思う。何か一つでも話を持ちたくて、そんなありきたりな、だけどみんなが興味を一度は持つその話題。 「彼女とか興味ないの?」 「あぁ…めんどくせー」 あたしのその問いに、彼は口癖で答えたからキャッチボールがそこで終わってしまって。それ以上会話を続けることが出来なかったのは彼の横顔があまりにも険しくて。あたしはその横顔を見て、任務中だというのにこんな話をしてしまった事を後悔した。 まだあたし達は幼かったのだ。サクラちゃんやいのちゃんがサスケ君に夢中になっていてキバ君やナルト君が毎日騒いでて。 そんな日々の中、ずっとずっと、何年経ってもこのまま皆変わることが無いのだろうと思っていた。子供だった。 「あたし、強くなるの」 サクラちゃんは、笑っていた。サスケ君が居なくなってしまったのに。強くなると言って。大怪我をして帰ってきた彼等の姿に泪が出そうになって、だけどシカマル君が無事なことに喜んで。サスケ君が戻って来なかったのに笑うサクラちゃんを凄いと思って。 そして唐突に自分の考えが子供過ぎた事に気づいた。いつ命を落としてもおかしくない状況の中の一瞬の平和な雰囲気に惚けている自分が、子供過ぎていた事、に。そして同時にその頃からシカマル君の変化にも気づいてしまった。時々砂の国から使者として来るその人に対する、雰囲気の違いに。 あたしは凄く悲しくなったのを覚えている。砂の国の人は、とても輝いた人だった。あたしみたいな、一般平凡な忍とは違って雰囲気からして強いと感じるほど強烈な、だけどとても綺麗な。 女のあたしですらその人の立ち居振る舞いに思わず感嘆してしまったのだ。 シカマル君にとってその人は戦友であり、命の恩人であり、忍仲間であり、そして惹かれる相手であったのだ。あたしはその二人を遠目で見ていて、なぜだか叶わないと思った。否、悟った。 その二人はとても、理想的だったのだ。 ずきずきと腹部が痛む。お腹に心臓があるみたいだ。ドクドクと脈を打つように鈍痛が走る。幼かったあたしも中忍になり、それなりに中忍の任務をこなしていた。油断していたのだ。ずるりと樹の幹に寄りかかるとほんの数メートル先にようやっとの思いで倒した敵の死骸が無残に転がっている。 (あたしも、強くなったよ、サクラちゃん) いつか泣き笑顔を浮かべた友達を思い出す。木漏れ日の中をゆっくりとした時が流れるように感じる(血のにおいでくらくらするのに)体が、まぶたが重たい。ゆっくりとひざをつくと、その小さな衝撃に腹部の傷が騒いだ。手を当てると一瞬にして真っ赤に染まる。(あぁそうか)(この血のにおいはあたしか)その手を見つめていると、胸から急激に熱いモノがせりあがってきて、きつく目を閉じた。 「……っ、」 真っ赤に染まった土地にあたしの身体は吸い付くように転がる。ひゅーひゅーと喉が鳴って目がぼんやりとしか見えない。凄くだるかった。もう息をするのもつらい。 ぴちち、と鳥が樹から飛び立った。バサバサという、羽ばたくその音と鳴き声が何だかとてもよく聞こえてあたしははっきりとしない頭で、瞳でその影を追った。樹の枝の間をその影がゆっくりと飛んでいく。せっかくの晴れなのに、雄大な雲の形を捉えることが出来ない。あぁ、もったいない。きっと今頃シカマル君はこの空を見ているのだろう。あたしは同じ空をしっかりと見ることすら出来ないのだ。空をぼんやり見上げる彼の姿だとか、面倒くさそうな表情だとか、照れたように笑う姿だとか。急にシカマル君の姿が脳裏によみがえる。胸の奥がとても苦しい。会えない、逢えない。何度でも思い出せる。一瞬の邂逅までも。 ぴちち、鳥が鳴く。あたしは急激に悟ってしまった。不思議と自嘲がこみ上げる。あたしはシカマル君がずっと好きだったのだ。 (こんな時に、よりにもよって後悔だなんて、) あきらめたと思っていたのに。最後にはシカマル君を思って、なんて。ずいぶんエゴの強い女だ。死に行く人間に思われたくないだろうに。 それを悟った瞬間、すっと胸の奥が軽くなる。あぁ、本当に、これで(おわりだ) シカマル君の笑顔だけがぼんやりと胸の奥に浮かぶ。ふわふわとして気持ちがいい。 あぁ、なんだかとても眠たい。 |
ラストワルツ
やっぱりね、あたしはあなたが すきだった