「まだ寝ねェんですかィ」 縁側にぼんやりと座って月を眺めていた。あの真ん丸い月でウサギは餅をつく。その出来上がった餅を嬉しそうに、マヨネーズをかけて頬張るウサギの姿を想像してタバコの新しい一本をくわえた。 「何の用だ」 「別にィ、厠に行こうとしただけで」 「じゃぁさっさと行け」 あからさまなため息が背後から聞こえたが、いつものような癪に障る言葉は聞こえなかった。例え聞こえたとしてもたぶん、聞き流すのだろうが。まァ、と何かしゃべりかけた総悟の声が薄く残る。ちりちりと鳴く虫の声がそれを消した。タバコの煙がゆらゆらと真ん丸いお月様を視界から少しぼやけさせる。いつもみたいに肺一杯に煙を送り込んでも妙な浮遊感だけが消えない (身体は鉛みてェに重いってのに)。 「…土方スペシャル食いてェな」 「……雰囲気ぶち壊しでィ」 ありゃ犬の食うもんですぜ、総悟の声がする。ちりちりと虫が鳴く。 瞬きひとつ、真っ黒なお空がさっきより明るい。(否、宇宙船やらでもともと少し明るかったか)明るいといえば、あいつはキラキラ光る飾りもんが好きだったな。なんて、不意に。 いつも無表情な癖に、時々隊士が土産で買ってくる風鈴だとかガラス細工だとかそういったものを目の前にするとぼんやりと嬉しそうに見つめる。 「は、この月見てんのかな」 「……」 月が丸いとかこつけて、団子を食べに行こうとはしゃいだあの姿が浮かぶ。あぁそういえば、今日は静かだ。何かが足りないんだ、そうだ、一体なんだろう。口と頭がまるで別の身体にあるみてェだ。 頭はぼんやりとして重たい癖に口はペラペラと饒舌。 (何だか瞼が重たい) 「今日はやけに静かだな、アイツが居ないからか」 「…土方さん、もう、」 「今日は満月だってのに、ちっとも面白くねぇ」 ふ、と小さく笑うと咥えたままのタバコからジジ、と音がした。ちりちりと虫が鳴く。(あぁ本当につまらねぇ、)(身体が重たい) 「もうはいねェんです。もう、終わりにしやしょうや、土方さん」 「……」 総悟が珍しくやさしかった。何だか気味がわりぃ。 あぁ、本当に。分ってるんだ。終わりにしなくちゃいけないって事位。だけど俺には難しすぎた。を、の居た日を生き続けようとしているのは俺。それを終わらせたとき、が居なくなったのが現実になる気がして(怖くて)。 (好きで好きで大切で大切で守りたくて守りたくて) だけど迫りくる病魔には俺の力が届かなくて。赤い病気に連れて行かれてしまった。(もうそれがいつの事だったのか、分らない) 「頼みまさァ、土方さん。もう、寝てくだせェ」 このままじゃアンタも、総悟の声が珍しく小さく聞こえる。何だか、手足がしびれてきた。すべてがぼんやりとしてる。だけど、寝たら、が、が居た日が過去になる。目を閉じなければ、まだ今日は続いている。それはが生きていた今日であって、ずっと俺の中で時間は進まない。そう、過去にならない。 「寝たら、今日が昨日になる」 自分で言ったのに、その言葉は誰か別の人間が発したみたいで。 あぁ、本当は分っているんだ アイツの居た日は、もう 「土方さん、あんた本当はもうとっくに気づいてるんだろ」 |