彼女は明るくて、面白くて、友達の多い人だった。そしてあたしと彼女は、世間で言う親友であった。其れは今でも進行形で。バカな事で盛り上がり部活の事で喧嘩もした。本当に何でも有りな、友達。(だった、) 彼女はよく笑う人だった。あたしとは違って、変な所で転ぶし何に対しても積極的で、でもどこか適当で。話し出せば彼女は何時間も話しつづけていた。あたしとは少し違った、人間。そんな彼女だから周りにはいつも人がいる。少々羨ましくも思ったりした。あたしという人間は彼女とどこか似ている部分もあった。ただハイテンションな時は酷いくらい笑いを与え、自分自身も笑い転げる。だが彼女と違ったのはあたしが酷く嫌な女である事だった。 だけどお互いとても気を許していた。何があっても次の日には喧嘩した事もすっかり忘れ互いに笑顔を見せる。だから、あたしはそれなりに頑張る必要があったのだ。真青に晴れ上がった、とても気持ちの良いお昼。唐突に、其れは今まで彼女のいいお友達であったあたしの心を破壊しに来た。 「・・・あたし、仁王が好きになったみたいなんだ」 親友――彼女は顔を何時に無く紅潮させて呟いた。あたしの心は、正直言って今までに無いほど苦しみの悲鳴を上げ始めた。見開いた目が元に戻らない。その瞳に写った彼女は自身の少し茶色い髪の毛を指で弄びながら続けた。 「ね、だから応援して!」 彼女のその笑顔は、今まで見てきた中でも一番輝いていたように思う。 胸の奥がやけに痛んだ。ジクジクと。大きく息を吸って、吐いた。溜息がこぼれた。とても嫌な、何か重い物。ドロドロとした其れはあたしの中に広がっていく。だけどあたしは、笑顔を浮べ(きっと引きつっていた)うなづく事しか、出来なかった。 仁王とあたし達の関係は極々普通のクラスメイトだった。あたしと彼女は常にクラスの中心で騒ぎを起こすような騒がしい女で仁王も、時々その騒ぎに加勢していた。遠くから人を馬鹿にしたような笑顔を浮べているのかと思えば何時の間にかすぐ傍までやってきて美味しいトコロをさらりと持っていく。仁王はとても腹黒かった。テニス部じゃコート上の詐欺師と言われているようで、よく似合った言葉だと思った。 彼女からのあの告白、むしろ宣言を受けてからのあたしはきっと仁王を並べるくらい詐欺師面になったんじゃないかと思う。だって、笑えてるから。そして其の侭何の変化も無い侭だったら良かったのだ。 しかし、あたしのそんな願いは神様には伝わらなかった。珍しく彼女が学校を休んだ。原因は酷い生理痛。抜けるようにどこまでも晴れた金曜日だった。 「何、今日お前さん一人かね」 「一人って何、友達なら沢山居るけど?」 「コンビ、の相方」 「あぁ・・・」 一緒に食べようという友達の誘いをやんわり断りあたしは独り、屋上に上り持参したお弁当を広げていた。何となく一人になりたかったのだ。彼女は珍しく休み。温かな晴れ空の下はあたしの汚い心を洗ってくれるようで気持ちが良い。丁度卵焼きを口に放り込んだ時、錆びた入り口を開けて彼が入ってきた。彼は入り口の横に座っているあたしを見、一言目にそう言った。 「コンビって言うのやめてよ仁王。本当にお笑い芸人みたいじゃん」 ゴクリとパックのお茶を飲み下して言う。仁王はケラケラと笑った。あたしは不謹慎ながらもその笑顔に思わずときめいてしまった。人を馬鹿にしたような笑顔だったのに。重症だ。仁王はひとしきり笑うとあたしの横に腰を下ろす。それからあたしのお弁当を覗き込んであたしの顔を覗き込んだ。切れ長の綺麗な眼があたしを見つめている。(心臓が破裂しそうだ。) 「・・・何」 「美味そうな弁当じゃの」 は?とあたしが声を漏らした時それは遅くて。あたしが大事にとっておいたタコさんウィンナーは仁王の口の中へダイブしていた。仁王は美味しそうに口を上下させる。あたしは一瞬自分がドキドキしていた事も忘れ、仁王に突っかかろうとした。…やめた。食べ物ごときで喧嘩売るなんてなんとも子供だと思ったからだ。仁王はスマンの、と軽く笑った。反省している色は見えなかった。 「仁王は、何で此処へ?」 「あー・・」 あたしはすっかり空になったお弁当箱をカバンへ仕舞った。ぐしゃぐしゃになったプリント類がお弁当箱の行く先を妨害する。あたしは少し力を込めて無理矢理詰め込んだ。乙女失格。あたしの何気ない質問に仁王は空を見上げて気の抜けた声を出した。 「相談事ですか?」 珍しく返答の遅い仁王に、あたしも同じように空を見上げて声を出す。視界の端っこで仁王がチラッと此方を見てまた空を見上げるのが見えた。綿菓子みたいな雲が絵に描いたように綺麗に青い空の中を泳いでいる。平和的な光景だ。 「なぁ、」 「…ん?」 あぁ、眠たくなってきた。あたしは半分眠りの世界に入りかけた頭で、よくこんな所で眠たくなれるよな、とかとても穏やかで気持ちが良いな、とかそんなどうでも良い事を考えていた。 「聞いてくれんか」 やけに真直ぐな言葉を発する仁王に視線を向ける。仁王が、あたしを見ていた。端整な顔。綺麗な髪。鋭い瞳。あたしは一瞬息をするのを 忘れた。あたしは、体が強張っていた。瞳が仁王から離せない。あぁ、この雰囲気は苦手だ。あたしは酷く緊張していた。こんな、真摯な仁王を見るのは初めてだったのだ。ぎゅ、と胸が切なくなる。見つめられていると思うだけで、苦しくなってしまう。 仁王は、静にそっと、口を開いた 「俺――――・・・・」 いつもの放課後。誰も居ない教室。外は 雨。ザァザァと耳障りな音が教室に入り込んでくる。あたしは、仁王に恋をしていた。親友に仁王に対する思いを告げられた時から、否、それ以上前から仁王に対しての其れはあたしの心の中に芽吹いていて。何時の間にか如何する事も出来ない代物になってしまっていた。そして気がつけばあの日、あの時それは起こってしまった。あたしは、なんとも不運な女だ。 晴れた空の下、仁王はあたしに告白をした。普通の告白ならあたしは手放しで喜んだだろう。間違いなく、あたしは泣いていた。だけど、実際言われた其れは、全く違った物だったのだ。 好きな子が出来たと。あたしに協力して欲しいと。その子が、彼女――親友であるということ。 一瞬眩暈を感じたあたしはバカな女だったのだろうか。そう、あたしは仁王が好きだった。過去形ではない。現在進行形でそれは進んでいる。そしてあたしは親友も大切だったのだ。もし、仁王の告白を聞かなかったとしてもあたしはきっと親友を応援する道を選んだだろう。だけどあたしは酷く嫌な女だ。親友の告白を聞かなかったら、あたしは仁王に気持ちを伝えていた。否、親友がただの友達であったなら、あたしは仁王に気持ちを伝えていた。あたしは嫌な女なのだ。 正直、あたしはどこかで嫌気が指していたのだ。何でも自分の下へ引き寄せてしまう彼女の事が。最終的に彼女に仁王を取られてしまったと思ったのは、あたしの本心だったのだろう。酷く歪んだ感情は、また明日になればきっと隠せる。隠さなくちゃいけない。そうしてあたしは毎日過ごしていかなければ成らない。 窓の外、雨が打ち付ける校庭。 ほら、1つのビニール傘に肩を寄せ合い帰っていく。 |
いつもは晴れなのだけれど